平成28年4月より職業能力開発促進法が改正されてから、労働者には「自発的に職業生活設計をおこなう責任」、企業には、「労働者が職業生活設計を送るための能力、考える機会を支援するキャリアコンサルティングの機会の確保とその他の援助をおこなう責任」が定義されました。当初は、
「職業生活設計って企業に就職したらある程度できるものではないの?」
「そもそもキャリアコンサルティングって何?」
そんなイメージの方が多い中で、キャリアコンサルタントを仕事としている私の中では、企業や個人にどのように認知され、本当に必要とされる人へ必要とする機会の提供ができるのか、ということが常に課題でした。
あれからおよそ2年半の間、私自身が携わった中で、経営者・マネージャーの間で勘違いされていたこと、捉え違いをされていたことなど、気づいたことなどをまとめてみました。
評価制度の延長ではない個のキャリア形成支援をおこなうキャリアの権利
政府は当初、助成金を活用することで、セルフ・キャリアドック制度を認知・拡大していこうとしていました。助成金活用は中小企業にとって経営的に助かるものであるので、多くの企業がこの制度を取り入れています。(現在は助成金活用によるセルフ・キャリアドック制度は終了しております)
でも中には、セルフ・キャリアドック制度を、企業内の評価制度の延長や、上司がおこなう仕事の悩み相談の延長と捉えている方も多くいます。だから、外部のキャリアコンサルタントに相談することで、上司は下記のように考えがちになるのです。
- 自分は信用されていないのではないか
- あとで相談内容を教えて欲しい
- 現在の関係のバランスが崩れて離職されたら困る
そもそもセルフ・キャリアドックとは、個人のキャリア形成支援であって、社内の評価制度や相談の延長ではないのです。では、なぜ会社が個人のキャリア形成支援をおこなう機会の確保を支援しないといけないのか、それは時代の変化と進化にあります。
働く意味・存在価値を求める時代へ
人生100年時代と言われて、様々な制度も変革を迎えています。
- 終身雇用の崩壊
- 定年制度の延長
- 新卒採用の変革
以前は就職さえすれば、定期的に階段を踏むステップがあって、その通りに働いていれば将来も安定している、そんな構図でした。
でも現在は、10年後の会社の未来も不明確な時代の中で、企業が役職や昇給、雇用や給与の安定を保障できない時代になってきています。昔みたいに「就職したら企業が面倒みてくれるから安心」というわけにはいかないのです。だから、企業だけでなく、従業員個人も自身のキャリア形成について考える機会を持ち、自律したキャリア形成を育みましょう、ということがセルフ・キャリアドック制度の見解です。
この「自律したキャリア形成」という意味を、当初はよく捉え違いされていました。
- 転職されてしまう
- 意見を取り入れるというより、ワガママを聞いているようだ
- 周りを協力せずに自分勝手に仕事をしそうだ
このように勘違いされやすいのですが、本来の自律したキャリア形成とは以下のようなことです。
- 日々の活動で成長を感じることができる
- 仕事を通して自分のチャンスが拡がっていると感じることができる
- 様々な人と交流し、相互に助け合い、自分が必要とされている
- 自分らしく人生を過ごすために必要なことが何かを考える
このような内的キャリア(働く意味・存在価値・価値欲求)が強く、カタチとしてみえるものではないので、一人ではなかなか答えを出すことができません。ひと昔前のように外的キャリア(収入・職位・待遇)の欲求だけではないのです。
もちろん、外的キャリアを求めている人もいます。その場合は明確な目標があるので、どのように行動していけばいいのかがわかりやすいですよね。
キャリア健診とキャリア検診の違い
もう一つ、企業内の評価制度や、上司がおこなう仕事の悩み相談と、セルフ・キャリアドックの違いについてお話しすると、「キャリア健診」と「キャリア検診」の違いです。
■キャリア健診とは…組織視点でおこなうもの
「あるべき」「期待される」などの状態やプロセスの確認などを企業が主導して実施します。
・組織が求める期待される働き方像の明確化
・組織、周囲が求める状態の比較
・査定や人事評価など
組織に所属しているなら、誰もが定期的に受けていますよね。給与や昇給など、何かしらカタチとしてみえやすいモノになります。
■キャリア検診…個人の自己責任でおこなうもの
自分の設定した自分自身の職業生活とそのための能力開発の状態やプロセスの確認をモニタリングをします。
・目標達成のためのロードマップや支援
・ライフキャリアの充実に向けた対応
・人間力開発や組織の期待、信頼への対応
個人視点で自分のキヤリアを考えていくこと、これからの時代に必要な考えです。自分自身があるべき姿や働く意味・存在価値欲求などカタチとしてみえないモノを、キャリアコンサルタントが支援していきます。
組織視点から、個人の自己責任でおこなう、どちらの検診(健診)も必要です。組織にかかわるための職場適応能力と自分らしさを活かすアイデンティティを育むことで、企業に必要とされる存在意味と価値が生まれ、生産性が高まります。
労働者の精神的安定を育むことで生まれる効果とは
年齢によって、外的キャリア(収入・職位・待遇)と内的キャリア(働く意味・存在価値・価値欲求)の欲求は変化していきます。もちろん、結婚・出産などのライフイベントから、介護、身内の死別などから、働く意味が変化することもあります。
その変化の中で、自分自身の存在価値や精神的安定を望む労働者は、これからも増えていくでしょう。だからこそ、セルフ・キャリアドック制度を活用することは企業にとっても、個人にとっても必要なことなのです。
精神的安定を満たす労働者が多い企業は、より良い信頼関係が構築でき、その信頼が業務のレバレッジを効かせて生産性を高めてくれます。これは、時間効率を図る、AIを導入することよりも、はるかに生産性がUPします。労働者を雇用している企業であれば、活き活き働いている従業員を見ることで、経営者自身も精神的安定が生まれていますよね。精神的安定を築ける信頼関係は生産性のレバレッジを効く種なんですよ。
だから、セルフ・キャリアドック制度を上手く活用して欲しいのです。
「職業生活設計って企業に就職したらある程度できるものではないの?」「そもそもキャリアコンサルティングって何?」当初はそんな声を頂いていたクライアントも、現在ではキャリアコンサルティングの必要性を認識さえています。定期的にキャリア検診をおこなうことで、改めて企業に働く意味・存在価値を認識したり、できること、やりたいこと、求められていることを整理しながら自身の可能性を引きだしているスタッフもいます。
もし、あなたの企業がまだ制度を取り入れていない、または一度活用したことはあるが上手く活用しきれていない、という方はお気軽にお問い合わせくださいね。
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