私はよく経営者とお会いし、キャリアコンサルティングについてお話しする機会があります。最近では、キャリアコンサルタントという名称を伝えると、知っているという方々も増えてきました。でも一方でキャリアコンサルティングの必要性という部分では、まだ理解されていないことが多いんですよね。この記事では、ある中小企業経営者の方からの質問をもとに、従業員のキャリア形成を企業がおこなう必要性についてまとめてみました。
キャリア支援は離職を助長してしまうという誤解
先日、お会いした経営者から、このような相談を頂きました。
自分の人生って自分で考えていくものじゃないですか。
経営者の私でも、自分の人生に満足できているわけじゃない。いつも不安ですよ、従業員が辞めたら…、業績が落ちたら…、と考えると。
確かに、従業員を雇い給与を支払うことで、その従業員や家族の生活の保障や安定につながるから、企業に属していることはキャリアの一部だとは思います。
でも、一生涯働く保障もない従業員に対して、今後のキャリア形成を支援することは、何だか転職を見据えた心の余裕がある経営者にしかできないことではないのでしょうか?
私のような中小企業経営者には、そのような余裕は持てないんですよね。
一生涯働く保障もない従業員…、これは本当にその通りです。経営者は従業員に長く働いてもらいたいという気持ちはあっても、その保障はありませんよね。
もちろん、従業員も長く働きたいと考えて働いている方が大半です。でも年齢を重ねるにつれ、従業員自身の働く意欲だけではどうしようもないことがでてきます。
例えば、介護離職がそれにあたります。
従業員が働きたいと考えていても、従業員の周りを取り巻く環境が変化すると、従業員自身のキャリアも変化せざるを得ないのです。でもそのようなことが直面したとき、従業員のキャリア形成を支援する企業と、支援していない企業では、大きく差がでてくることがあります。
キャリア支援は働き続ける意欲と安心感を築くことができる
法律上の話しをすると、平成28年4月に職業能力開発促進法が改定され、事業主が講ずる措置として、キャリアコンサルティングの機会を確保し、その他の援助をおこなうことが規定されています。
ただ法律があるからやらないといけない、という形であれば、「何の意味があるの?」になってしまいますよね。
従業員のキャリア開発支援をすることで、一人ひとりの生産性向上へと繋がることができます。そうすることで、離職抑止・スタッフ定着・企業繁栄へと繋がっていくことができるようになります。
つまりそれは、経営者自身が、より良いキャリアを築けるための一つの糧になるのです。
突然起こりうる介護離職
一つ体験談を例にして、企業が従業員のキャリア形成を支援するメリットについてお話ししていきたいと思います。先ほどの介護問題を抱えた一人のキャリアコンサルティングのケースです。
ある30代の男性を1年半前にキャリアコンサルティングをさせて頂きました。その時は、まだ親の介護についてはボンヤリで、ゆくゆくは考えないといけないんだろうな、その程度でした。経営者の方とは、上記のような介護問題の話しをし、突然の介護離職に困らないために制度・仕組みを整えてきました。
1年後、その従業員は、急に親の介護が必要になりました。仕事を続けたい気持ちもあるし、でも親の介護も大事だ、どっちも捨てられない…。そんなとき、会社に介護についての制度・仕組みがあったことを思い出し、企業に相談し働き方を変えました。
私がこのことを知ったのは、働き方を変えて3か月後のことでした。キャリアコンサルティングに伺うと、このようなお話しをされたのです。
介護が必要だとわかったときは、もう頭が真っ白で・・・。
介護にかかるお金と時間、
誰が介護をするのか、
今の仕事と両立できるのか
仕事をセーブしたら、生活も苦しくなる・・・
そんなことがいっぱい駆け巡っていたんですけど、そういえば1年くらい前に、会社は介護関係の制度や仕組みを整えてくれていたなって思いだしたんです。
その時は、ふ~んって感じて気にも留めなかったんですけど。必要なかったから。
でも、制度があったと気づいた途端、会社にまず相談してみよう、と思ったんですよね
多分、制度がなかったら相談しづらかったし、会社には相談せずに結論を出していたかもしれないです。
でも相談したら働き方は変わったけれど、仕事も続けられているし、何より続けられることができたこの会社に感謝しています。
このように、従業員が安心して働ける職場は、働き方が変わっても定着につながることは多くあります。高齢化社会、少子化、人材不足と言われるこの時代だからこそ、採用した一人ひとりの従業員を、安心して働けるように支援していくことは、企業にとって必要なことなのです。
いつでも従業員に安心して働ける場を提供する価値
介護については、あるとき突然に訪れるものであり、育児のように計画立てておこなえるものではありません。終わりもわからない、不安になると同時に、あまりにナイーブな問題です。だから企業に相談できず、無理をして従業員自身が体調を崩してしまったり、離職に至るケースもあります。
企業に相談しにくいと感じる要因として、このようなことが挙げられます。
- 仕事と関係のない家族のことを相談しても、理解してもらえないだろう
- 仕事を辞めたくない気持ちが強いから、ギリギリまで伝えたくない
- 仕事は仕事、家族は家族、これまできっちりわけてきたことが自分のポリシーだった。それが同化することに、やるせなさを感じてしまっている
このような心の想いを、安心して自由にしがらみなく話せる場所や時間が、企業内に整っていれば、無理して体調を壊してしまうことも、離職せずに企業の中で対応できることが見つけることができるようになります。
安心して自由にしがらみなく話せる場所や時間とは、「キャリアコンサルティング」をおこなう機会です。セルフ・キャリアドックとも言います。企業は従業員に対して、年1回健康診断をおこなうように義務付けられていますよね。なぜなら企業経営は、従業員の健康があってこそだからです。
セルフ・キャリアドックとは、従業員の心、メンタルの健康診断です。
現状の心の状態、これからのことを安心して自由にしがらみなく話すことで、心の安定につながります。
同時に、企業にとっての課題を見つけ、改善できるきっかけにもなります。30代、40代の働き盛りの従業員にとって、将来的に親の介護はついてくるものです。その年代が多い企業の従業員を面談すると、多くの方が親の介護を気にし始め、将来田舎に戻るか否か、という声もあがります。
そんなとき、企業側から短時間労働、テレワーク、介護支援のための福利厚生の充実等、提示できているか否かで、従業員にとって企業に対する安心感は異なります。
制度が整っていないと、相談しても無理だろう、と思い込んでしまいます。だから相談せずに離職してしまうケースがあるのです。
相談されてから、制度を整えても、どうせ上手くいかないだろう、それならきちんと理解ある企業へ、と考えてしまうケースもあります。
だからこそ、将来のことを見据えた働き方の多様化、制度の導入は中小企業が考えていかなければいけない課題です。
働き方の多様化が従業員を安心させる定着の種になる
人生100年時代において、転職は数度あることが自然になっていくでしょう。でもだからと言って、長く働きたいという気持ちがなくなっているわけではありません。
むしろ、キャリア形成を支援してくれる会社、従業員を大切に考えてくれる企業に、長く働きたいと考える方が増えています。
その中で正社員から時短へ、正社員からパートへ、テレワークへと、働き方は変化していきます。その働き方を多様に整えている、理解ある経営者ほど、従業員のキャリアを大事に考えている企業だと、評価されやすいのです。
心の余裕がある経営者しかできない、というわけではありません。決して離職ありきではありませんから。従業員のキャリア形成を支援できるような、働き方の多様化について一度考えてみませんか?
★働き方の多様化について、キャリアコンサルティング、セルフ・キャリアドックについてもっと詳しく聴きたい、相談してみたい方はお気軽にお問い合わせくださいね。
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